文学部の浜野教授は、哲学・倫理学を専門としている。人間について、そして人間の生きる社会について、自身の道徳哲学を基礎に研究を続けている。
幼いころから本が好きだったという教授。ドストエフスキーを小学生の頃に読み、中学生の頃にはすでに哲学を志すことを決めていたそうだ。
学生時代はフランスの哲学者ルネ・デカルトの研究を行なっていた。デカルトの生きた時代は、科学革命の最中。教授は新たに生まれた自然科学的な人間観と伝統的な人間観との関係について考え、人間の心と体の関係を理解しようとした。その後、人間へのさらなる深い理解を求め、英米の分析哲学に興味を持ち、ペンシルベニア大学に大学院生として留学。現代の進んだ科学を正面から受け止める必要性を感じ、その上で哲学の探求を行おうと考えた。現在教授は「人間全体を理解するためには自然科学への理解、それと同程度に文学、社会科学への理解が必要だ」と語る。
教授の道徳哲学の根本には、人間は社会的な動物であるという考えがある。
人間には本来、お互いに助け合い、協力し合おうとする傾向があるということだ。しかし、育てられ方や社会の慣習、制度のもとでその傾向がゆがめられる場合が多々ある。人間本来の良い傾向を発揮できず、いじめや差別といった社会問題が後を絶たない。この良い傾向をゆがめているものを正すことが広い意味での政治の役割だと教授は言う。
そこで考えるべきが、道徳哲学を基にした政治哲学だ。「今の日本のような、投票や多数決だけの曖昧な民主主義ではない。人間と人間の正しい関係のあり方、平等なあり方を実現しうる民主主義を目指す必要がある。そのためのビジョンを作りたい。そういったことに貢献してゆきたい」と教授は力強く語った。
最後に、学生に向けて教授は2つのメッセージを残した。一つは「I.Fストーンの『すべての政府はうそをつく』という言葉を覚えていてほしい。自分の生きたいように生きられる自由な、開かれた社会をつくるために、勉強してほしい」というメッセージだ。また「能力の差という不平等は、確かに存在する。しかし、我々は人間である時点で基本的に平等なのだ。そのことを忘れずに誇りをもって生きてほしい。その誇りを傷つけるものに対して怒ることができる気概を持った人間として生きてほしい」と二つ目のメッセージを語った。
浜野教授は今年度の3月末で退職。来年度からは非常勤講師として本学で講義を行う。
浜野 研三(はまの けんぞう) 文学部文化歴史学科教授
1974年 | 京都大学文学部卒業 |
1980年 | 京都大学大学院 修了 |
1986年 | ペンシルベニア大学大学院 修了 |
1987年 | 京都大学文学部 助手 |
1995年 | 名古屋工業大学 助教授 |
2000年 | 関西学院大学文学部文化歴史学科教授 |