パネルディスカッション=2026年1月11日、関西学院会館レセプションホール、山須田優撮影
災害復興制度研究所は、関西学院会館レセプションホールで2026年復興・減災フォーラム「頻発する激甚災害からの人間の復興―被災者・被災地の尊厳を守るために」を開催した。1月10日に全国被災地交流集会「円卓カフェ」、11日にシンポジウムが行われた。
10日の「円卓カフェ」のテーマは、「ともに語る『人間の復興』~被災者・被災地の尊厳を守る復興知の共有~」だ。「円卓カフェ」とは、山泰幸氏(災害復興制度研究所長・人間福祉学部長)が長年実践してきた哲学カフェの方式で、自由にテーマを議論する場のことである。
司会は山氏が務め、9人の登壇者が講演した。解題は山中茂樹氏(同研究所顧問)と岡田憲夫氏(京都大学名誉教授・同研究所顧問)が行った。コメントは照本清峰氏(同研究所副所長・建築学部教授)と羅貞一氏(同研究所主任研究員・准教授)が行った。
第1部「被災者・支援者にとっての尊厳」では、被災現場での実践が語られた。
村上ゆり氏(NPO法人外浦の未来をつくる会理事)は、防災教育や防災訓練など災害が発生した時だけではなく、災害発生後のためにより何かができるのではないかと語った。矢野淳氏(株式会社MARBLiNG代表取締役・図図倉庫総合プロデューサー)は、昔の地域の在り方を踏まえた、主体性を持った新しい地域の築き直しについて提言した。
金千秋氏(特定非営利活動法人エフエムわいわい代表理事)は、支援する人・される人という区別ではなく、共にあるという新しい枠組みの展開の必要性を訴えた。米山清美氏(にしのみや遊び場つくろう会代表・認定NPO法人日本災害救援ボランティアネットワーク理事)は、被災地での子ども支援の実践について報告した。
品川真紀氏(台湾原住民ツォウ族文化ガイド解説員)は、助ける側と助けてもらう側の尊厳の置き場所が難しいと述べた。
第2部では、「研究者が考える被災者・被災地の尊厳」について語られた。
上村靖司氏(長岡技術科学大学技学研究院教授)は、2004年の中越地震で被災した新潟県長岡市山古志において震災以降人口減少が緩和したことから、震災前に失っていた尊厳を震災というきっかけによって取り戻すことができたのではないかという見解を示した。
柿本竜治氏(熊本大学くまもと水循環・減災研究教育センター センター長)は、熊本県益城町のましきラボの活動について報告した。土木を専門とする立場から、土木事業と実際に地域で暮らす人々の間では時間軸の違いが大きくあることを指摘し、尊厳を守ることと復興・復旧のバランスの難しさに悩みながら活動を続けていると語った。
吳殷政氏(江原大学文化人類学科助教授)は、復興の過程においてどのような感情が好ましいもの・望ましいものとして語られているのかに注目し、好ましいと考えられる感情は他の意見や異なる声をあげる人々を排除する効果を持ちうることを指摘した。
張政遠氏(東京大学大学院総合文化研究科教授)は、2025年11月26日に香港・大埔の高層住宅群である宏福苑で起こった大規模火災を取り上げた。当事者と非当事者を分け隔てるのではなく、共に意見を交わし語り合う場と聴くことの力が求められていると説いた。
解題では山中氏が「復興という言葉に被災者を悲しくさせる要素が埋まっているのではないか」と問題提起をした。また、岡田氏は、お互いの前提を疑い合い問い直し合うことを繰り返すことで、様々な観念や理念にしなやかさや伸びやかさが生まれるのではないかと語った。
コメントでは、照本氏が、「被災者」という言葉の定義が難しく、「日本語として足りていないのでは」と指摘した。羅氏は、「復興は誰のため、何のためのものかを問い続けることが、制度化のプロセスにおいて極めて重要だ」と力を込めた。
「円卓カフェ」全体に関して、上村氏は、「誰が誰の尊厳を守るのか、誰が誰の尊厳を損なうのかという、主語が曖昧なまま議論しているような気がした」と振り返った。また、「我々自身が被災者というレッテルを貼っているのではないかと常に意識しながら互いに尊ぶことが重要だ」と強調した。

円卓カフェ=2026年1月10日、関西学院会館レセプションホール、山須田優撮影
11日のシンポジウムでは、羅氏が総合司会を務め、中道基夫氏(関西学院院長)と森康俊氏(関西学院大学学長)が開会挨拶を行った。加藤泰史氏(椙山女学園大学外国語学部国際教養学科教授・一橋大学名誉教授)が特別講演、山氏が基調講演を行った。その後、5人のパネリストがパネルディスカッションを行った。
開会挨拶にて、中道氏は、今回の復興・減災フォーラムが制度構築とともに心や魂の復興、減災にも資する機会となることを願うと述べた。また森氏は、「尊厳を守るには何が必要かを考えると人の話を聴くことに帰着するように感じる」としたうえで、社会構造の変化を踏まえて様々な視点から議論できればと語った。
加藤氏の特別講演のテーマは、「尊厳ある減災・復興に向けて―福田徳三を読み直す―」。大正デモクラシーの中心人物である福田が強く主張した「生存権」と「人間の尊厳」をどのような形で結びつけることができるのか、それが「人間の復興」にどうつながるのかを講演した。
加藤氏は、福田が主張する「人間の復興」は「人間の尊厳」と非常に密接に関わっていることを強調した。「尊厳ある復興」あるいは「人間の復興」を考えていくうえで「尊厳」と「生存」を切り離さず結び付けて捉えることが重要だと主張した。
山氏の基調講演のテーマは、「被災地・被災者の尊厳から問い直す人間の復興」。互いの尊厳が傷つけられていないことが確認できる、もし傷つけられていたら互いに手を差し伸べ合うことができる、互いの尊厳が守られているということを実感できる。そうした場で人は安心して話すことができると説いた。
そして、被災地をはじめとしたさまざまな地域の現場の中に尊厳を実感できる場を確保できるかが核心的課題であると述べた。
パネルディスカッションでは、岡田氏がコーディネーターを務めた。
山氏、関谷雄一氏(東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻教授)、矢野氏(株式会社MARBLiNG代表取締役・図図倉庫総合プロデューサー)、南正昭氏(岩手大学大学院総合科学研究科地域創生専攻 専攻長・教授)、有馬尚史氏(『凪が灯るころ~奥能登、珠洲の記憶~』映像作家)がパネリストを務めた。
関谷氏は「レジリエンスとしての人間の復興―ヒトと社会が元気になるための考え方」というテーマで講演を行った。「居住人口だけでなく、関係人口・交流人口を含めて多様な関わり方を許容することが重要だ」と主張した。
矢野氏は、「復興はマイナスをゼロにする作業ではなく、災害を経た上で次の地域をつくること。被災者と支援者の両者から地域を新しくつくっていく主体者が生まれてくることが重要だ」と呼びかけた。
南氏は、被災地の人々は尊厳をもとに生きる力を生み出すこと、そして人々の核心的な部分である尊厳を土台にした復興をしなければならないと述べた。
有馬氏は、2023年5月の奥能登地震に見舞われた石川県珠洲市の復興の歩みを記録したドキュメンタリー映画の製作過程について報告した。山氏は「共同で何かをつくっていくことに、尊厳をお互いに守り合う鍵があるのではないか」とディスカッションを振り返った。
閉会にあたり、山中氏は「復興とは人が人として尊重される社会をもう一度取り戻す営みである」と説いた。
現代の社会では分断や線引きが公然と語られる。だが排除は決して社会を守らないと指摘し、「言葉を失った人々がもう一度言葉を取り戻す、社会の外に追いやられた人々がもう一度社会の中心に戻ってくる―そのような社会を取り戻す営みが復興である」と強調した。
災害の中に人生があるのではなく、人生の中に災害がある。私たちは、人から災害を捉えられているのだろうか。
(山須田優)
