
ハンズオン・ラーニングセンターは8月25日から28日にかけて、福島県で原発問題特別演習「福島」~福島から原発を考える~を開催した。これに先立ち、22日には事前学習を実施し、長崎大学の鈴木達治郎教授が特別講義を行った。現在の原子力政策の課題について学生との意見交換の場も設けられた。
実習期間では、福島県浪江町を中心に、双葉町の帰還困難区域の視察や福島水素エネルギー研究フィールドの視察、東京電力福島第一原子力発電所の見学や中間貯蔵施設の見学など、多岐にわたるフィールドワーク形式で行われた。

この実習を終えた事後学習で、受講者が口をそろえて語ったのは「現地に足を運ぶ前と全く違う感覚をもった」ということだ。
震災から14年という長い歳月をかけてもなお、廃炉作業が滞る福島第一原発の現状を目の当たりにし、バリケードが張られ、廃墟と化した建物がそのまま放置されている様子をみて、一瞬言葉を失った。想像していたよりも、福島の復興に向けた現実は厳しいものだった。

現地では、福島の復興に携わっている多くの人と話を交える機会があった。福島県庁で復興に向けて日々奔走している佐藤安彦さんは、「同じ福島県民のなかでも、原発のある浜通りを見ていない人がいる」と語り、14年という長い年月の経過による問題の風化を懸念した。
また、現地にいる人にどのような支援をすることが有効なのかという質問に対して、現地の方に「大変だったね、頑張っているね、と励ましの声をかけることが実はとてもありがたいことだ」と話した。

原発から出る、いわゆる「核のゴミ」の最終処分場が決まらずにいるが、その事実が国民にあまり浸透していないという現実がある。これについて、環境省の西村治彦大臣官房審議官は大学生に対して、「福島の現状をちょっと知るだけでもいい」と訴え、問題の解決にはそういった積み重ねが大切だとメッセージを送った。
最終処分場の問題には〝Not in my backyard〟という考えが深く関わっている。社会全体には必要だと認める施設でも、自分の近隣に作られることには反対する住民の態度やその心理傾向のことだ。ゴールが見えない問題を解決する糸口は、国民一人ひとりが自分事として向き合うことだと感じた。

福島県の内堀雅雄知事はかねてから「復興は道半ばにもなく、途上である」と訴えている。これは、問題が山積しており、復興のゴール、ゴールの先を考えることができないという意味であると佐藤さんは語る。原発の廃炉や風評被害の問題は今も根深く残り、苦悩が絶えない。

この講義を担当した、news zeroの元キャスターで、関西学院大学東京丸の内キャンパスの村尾信尚教授は主体的、積極的な学び〝active participation〟の姿勢が大切であると強調した。メディアの報道やネットの情報などとは全く違う本当の姿がそこにはある。
(山下結大朗)