皆さんは「トリーチャー・コリンズ症候群」という病気をご存知だろうか。これは顔の頬骨や顎の骨、外耳が未発達のまま生まれたことで、特異顔貌、呼吸障害、難聴を示す遺伝性疾患である。この病気の発症ルートは、家系に発症者がいる場合は2分の1の確率による遺伝性、また家系に発症者がいない場合は染色体の変異による孤発性からであり、日本国内では5万人に1人の割合で発症している。生まれつき人と違う容貌の上、成長に応じて形成手術を繰り返す必要があるため、発症者は常に周囲の視線を気にしながら日々を過ごす。
そのような難病と向き合いながら、自分自身の人生を切り開く1人の少年を描いたのが『ワンダー 君は太陽』という映画だ。お気に入りのヘルメットをかぶらずには外出できなかった少年が、そのヘルメットを外し、学校という小さな社会で同年代のクラスメイトと過ごす日々は、孤独との闘いだった。しかし、偏見やいじめにさらされながらも、彼自身の行動や内面の魅力は次第に周囲の人々を惹きつけ、太陽のような存在となっていく。彼の容貌は、あくまで外見上の特徴に過ぎなかったのだ。
この映画の監督・脚本を務めたスティーブン・チョボスキー監督は、人と違った個性を“受け入れてもらう側”と“受け入れる側”の両者が、徐々に本当の自分を表に出すことができれば人は自然と変わる、と考える。これは、この病気の発症者だけではなく、性的少数者や障害者などを含む社会的マイノリティの人々にとっても同じことがいえるだろう。彼らが生まれ持った特徴を変えることはできないが、我々が見る目を変えることはできる。取り繕った外見ではなく、内面の魅力を見ることが大切であり、その小さな一歩が世界を変えることを教えてくれるヒューマンドラマだ。
◇
「ワンダー君は太陽」
監督 スティーブン・チョボスキー
原作 「wonder」R・J・パラシオ
◇
スティーブン・チョボスキー
1970年生まれ、米ペンシルベニア州出身。南カリフォルニア大学映画・テレビ学部脚本科卒業。2005年、ブロードウェーミュージカルの映画化『RENT/レント』の脚本を執筆。ほかに、脚本と製作総指揮を務めたテレビシリーズ『ジェリコ~閉ざされた街』(06~08年)がある。13年には、自著『ウォールフラワー』を自ら監督として映画化した。