村田沙耶香さんによる小説『コンビニ人間』は、読者に「普通」とはなにかを問いかける▼主人公の古倉恵子は彼氏なし36歳、コンビニで18年間働いている。恵子は「コンビニ店員」でいるときだけ、世界の正常な部品として生きていることを実感する▼しかし、彼女は新入り男性店員・白羽と関わる過程で、理解者だと思っていた家族や友人ですら、自分が「普通」になることを求めていたということに気づき、ショックを受ける▼そして恵子は18年間勤めたコンビニを辞めた。「コンビニ店員」でなくなった恵子は活力を失ってしまう▼しばらくして白羽に強引に連れ出された恵子は、乱雑で慌ただしいコンビニを見つける。そこでコンビニバイトこそが自分の生きる意味だったことに気づき、もう一度「コンビニ店員」に戻ることを、晴れ晴れと決意したのだった▼恵子は周囲からの「普通」の押し付けに悩みながらも、最終的に自分はコンビニのために存在していると確信した。この小説は、自分自身がありのままの自分を受け入れ、信じることの大切さを教えてくれる▼「心の貧しい人々は、幸いである。天の国はその人たちのものである」これは新約聖書マタイによる福音書に登場するイエス・キリストの言葉だ。「心の貧しい人」とは自分の弱さや限界を受け入れることができる人のことだといわれている▼新学期、慣れない環境で新たな出会いが続くだろう。社会から浮かないよう、本来の自分を隠して「普通」を演じ、苦しさを抱える人は少なくないのではないだろうか。現代社会に生きにくさを抱える人が、少しでも飾らずに生きていけることを祈る。
