(マスターピース)綿矢りさ『グレタ・ニンプ』

マスターピース

 少子高齢化が進む日本では、政府が「異次元の少子化対策」を掲げ、社会全体が子育て支援に力を入れている。支援があることは心強い一方、「産むべき」という空気がプレッシャーになることもある。時間やお金、そして健康すら失うリスクを背負うのは夫婦であり、とりわけ女性は、キャリアに少なからず影響を受ける。

 綿矢りさ著『グレタ・ニンプ』の主人公・由依は、長きにわたる不妊治療に苦しんでいた。保険適用はあれども出費は痛く、成功するかも分からない治療は心身を削る。治療をやめた途端に自然妊娠したとき、由依の中で何かが弾けた。口調は孫悟空のようになり、頭は紫色の坊主頭にし、「妊婦らしからぬ」奇抜な服装で過ごし始めた。

 コミカルに描かれるその変化は、決して奇行ではない。社会が女性に押し付けてきた価値観に抗い、自分の人生を取り戻すための由依なりの主張だった。

 由依は言う。「一番ストレスになるのは、自分が自分に〝こうであれ〟って価値観を押し付けてくることだと思うんさぁ」——女はおしとやかでないとダメ、母親はしっかりしていないとダメ——こうした社会の「見えない圧力」に悩む人は、今も少なくない。しかし、一番自分を縛り付けているのは、ほかでもない自分自身ではないだろうか。

 さらに由衣は主張する。「今の時代の女たちは、もっと自由に生きなきゃダメと思うんだぃね」——産むか産まないか。働くか働かないか。どんな姿で生きるのか。その選択は、社会ではなく自分が決めるものだ。

 少子高齢化、情報過多、ジェンダー規範——さまざまな問題が渦巻く現代社会で、私たちはどう生きるか。由衣の姿は、問いかけてくる。

 大学生は、サークル仲間などとにぎやかに過ごす姿が「充実している」とされることがある。だが、一人で学問に没頭したり、静かに自分を見つめる時間を選んだりするのも、確かな生き方だ。誰かが描いた「大学生像」に縛られる必要はない。由依が「こうあるべき女性像」を壊したように、他人の価値観に左右されず自分の人生を歩む、強い私たちでありたい。

(柏木美夏)

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文学部文学言語学科日本文学日本語学専修2年

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