バリ山行。正式名称をバリエーション山行。一般に定められた登山道を登るのではなく、獣道や道なき道を自らの手で切り開いて行う登山のことである。
関西学院大学のOBである松永K三蔵さん(44)の作品で、第171回芥川賞を受賞した「バリ山行」は登山が趣味の会社員を主人公とした作品だ。一般に定められた安全な登山道を利用した普通の登山を繰り返してきた主人公は、ふとしたことからバリ山行に出会い、その魅力に惹かれていく。
当然、バリ山行には危険が付きまとう。死とも隣りあわせだ。しかし、自分自身で開拓した道を振り返ると、そこには何とも言えない達成感が残っている。それこそ、バリ山行の魅力なのだ。
作中における「バリ」の舞台は山のみにとどまらず、人生においても同様であることが作中で示唆されている。誰しも自分の人生が既に誰かのレールの上に乗ってしまっているのではないか、という不安を感じることがあるだろう。
主人公は自分の人生を山に重ね合わせてその生き方を考える。「バリ」の人生を生きるのは時に困難で、あまりに難しい挑戦かもしれない。そのうえで下す決断を本書では読者として見守ることができる。
読者である「あなた」の人生についても思いを馳せてみてほしい。山あり谷ありの人生をどう生きるか、きっとそのヒントが見つかるはずだ。
(宝本拓夢)