部活動を通して得たもの 小西美穂さん、山之内風香さん対談

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 体育会ラクロス部女子は、関西学院大学文学部出身で、日本テレビのキャスター・解説委員として活躍する小西美穂さん(51)が初代主将として創部に携わっている。小西さんと、現・体育会ラクロス部女子主将の山之内風香さん(教育学部4年)の2人に、ラクロスの魅力や学生生活において課外活動、体育会に力を注ぐ意義について語ってもらった。(林昂汰)

《創部当時は「ないないづくし」》

 ――現在のラクロス部女子の活動について教えてください。

 山之内 現在は「ONE」というスローガンの下、5冠を達成し組織面でも日本一になる「真の日本一」を達成することを目標に活動しています。新型コロナウイルスの影響でなかなか活動できないですが、多くの人に支えられていることを実感しています。週に5回ほど、20人ほどの3グループで1時間ほどの限られた時間で互いに高め合っています。

 ――創部当時について教えてください。

 小西 一言で言うと「ないないづくし」。ラクロスというスポーツをやると決めて、こんなスポーツかなっていうのは、1本のビデオテープと松蔭女子学院大学(現・神戸松蔭女子学院大学)から借りてきたクロスとボールから始まりました。

 英語で書かれた解説書やビデオをコピーして切り取ってノートに貼って「こんな練習があるんだ。こんなルールがあるんだ」と。まず、教えてくれる人がいないし、グラウンドがない。

 石でゴツゴツの、誰も運動なんかしないような原っぱの河川敷で練習しました。東京で少し早くラクロスを始めた大学がありました。夜行バスで東京に行って、合宿に参加して一緒に練習して、夕飯時にとにかく練習法を聞きまくりました。私たちはそこで知ったことを関西の3大学に教えて、協力し合いました。

 ゴールが無かった。クロスもボールも、海外から輸入しても届くまで待たないといけないし、ゴールは日本にも売ってないしすごく高いから、作りました。友達が工事用フェンスの資材を作る会社の人と知り合いで、自分たちで枠を作って網を掛けて作った。

 京都の大学は、キーパーが段ボールを身に着けてて、すごくびっくりした。ないなら何か代わりのものでやる、というくらいエネルギーに満ち満ちていました。

 「ないないづくし」と一言で言いましたけど、「困ったもんだよ」というよりも、やろうと思ったこと全部ないのね。だけども代わりのものを探す、情報を持っている人を探す。なければ作ればいいじゃない。

 お金もない、バイトする時間もない、となって新月祭(関西学院大学の学園祭)でドーナツとコーヒーを売ってボールとゴールを買いました。最初の2カ月くらいの話かな。どんなスポーツか分からない時期は、練習に行っても、人によってはつまらない。練習方法がキャッチボールしかないから。練習方法も分からず3人でラインドリルして飽きて。練習といっても3人だけの時もありました。実際に楽しそうってイメージはあるけど、実際にどういう楽しみがあるか体感できない段階で、練習に行ってもつまんないってなっちゃう。

 東京は先行してラクロスが普及していて、アメリカからコーチが教えに来てくれた。関西にはアメリカ人以外が来た。

 イギリス人とカナダ人のコーチ。来日して一から教えてくれた。本当に伝道師が来たの。練習から試合ができるまで一から全部教えてくれた。練習方法やシュートの打ち方、イギリス人のシュートを初めて見た時は「うわー!こんな速いスピードでシュートを打つんだ!」と。楽しいと思って、合宿の最終日に紅白戦をやったの。その時に初めてみんなが「このスポーツ面白い!」って思った。その時が、関西に女子ラクロスの火がともった瞬間だったの。

《目標・目的を持ってスポーツに取り組める》

 ――ラクロスの魅力をどう考えていますか。

 山之内 ラクロスというスポーツには、今まで経験したことのない動き、フィールド内の感覚があります。今までやったことないスポーツだからこそ、自分の中で「自分ってこんなこともできるんだ」と、新たな自分に出会えます。関学ラクロス部はほとんどが初心者でスタートラインが一緒なので、自分の努力次第でどこまでも上を目指せるのは大きな魅力だと思います。

 日本一になるためにみんなが追求できる環境があること、一緒に取り組む仲間に出会えることも素晴らしいことだと思います。これまでスポーツなどで強豪校に所属してきて日本一など高く明確な目標を持ってきた人もいると思いますが、私はそこまで明確な目標や目的を持ってスポーツに取り組んだことがありませんでした。それでも、関学ラクロス部には明確で大きな目標があって、そこに向かって自分は何ができるか考え続けて行動に移して、毎日追求する環境があることはとても魅力的です。

《自分の強みが明確に》

 山之内 ラクロス部に入ると自分の強みを生かし、どれだけチームに還元できるか常に考えることになるので、徐々に「自分の強みはこれだ」と明確になります。「自分はこういう人です」と胸を張って言えるし、社会に出た時に生かされる。人間的な成長をすごく感じます。技術だけじゃないということが本当に感じられる場所だと思います。

 小西 本当にそうだと思います。付け足すとすると自主性だと思うんだよね。みんな初めてやるスポーツで、敷かれたレールに乗っていけば方策が確約されているものではないです。色んな人がこれまで培ってきた能力を持ち寄って新しいチームを作っていくスポーツ。だから、自分の考えていることを伝えたり行動したりしないと変わっていかない。行動を起こすことで変えられるということがこのスポーツの特徴。他のスポーツと比べても、自主性が問われるのは魅力だと思います。

 ラクロスは、2028年のロサンゼルス五輪で競技になるかもしれない。本当に頑張ったらもしかしたら出場できるかもしれないし、何らかの形で関われるかもしれない。「自分って何なんだろう」「何かやりたいけど何をやったらいいかわからない」とどこかもやもやしている人には、ラクロスの扉を開けると世界が広がっているかもしれないし、何か突破できるかもしれない、という可能性があると伝えたいです。

 山之内 そう思います。正解がないスポーツです。自分たちで色々アイデアを出し合って行動に移して正解を探しに行けるのは魅力のひとつです。

 小西 山之内さんはドーナツを売る必要はないんだけれども(笑)。考えたことを行動に移してみんなでこのスポーツを磨き上げていく途中にいるのは、楽しさ、やりがいにつながるよね。歴史もあって強いのは関学だけだし、基礎になる土台に彼女のような考え方や魂を受け継いでくれたのはすごくうれしいです。

《一人ひとりの成長が組織の成長に》

 ――大学生活で課外活動や体育会に力を注ぐ意義をどのように考えていますか。

 山之内 課外活動を通して人間的に成長できるのが一番大きいと思います。私は入部して最初に、先輩から敬語やメールのやり取りなど礼儀を教わりました。最初はラクロスにつながるものだと思ってなかったのですが、主将になって、役に立ったと思うようになりました。直接的につながるとは思えないこともどこかでラクロスにつながってくるし、社会に出た時にもつながるんだろうなと思っています。

 小西 課外活動を通じて、一人ひとりの成長が組織を成長させるということを体感できます。チームスポーツは選手の一人ひとりの成長が組織を成長させる。1人の力が足りない時は、どうやってこの子を助け、成長させようかとみんなが考える。そこには足並みがそろわない、厳しい練習に耐えないといけないというようなつらくて苦しいこともあるけど、そこを乗り越えたことが大きな糧になります。社会人になってからいろいろなつらいことがある時に「私はあんなことを乗り越えられた」「あの時何もないのにここまでできた」というある種の自信が今の私を支えています。

 仕事で取材に行って、できないこと、怒られること、つらいこと、たくさんあるんですが、やっぱりあの時の経験というのが支えになる。逆に、成功した時や人から褒められた時に慢心せずに「いろんな人が支えてくれたから今の私がいるんだ」「私が成長しただけじゃなくて、誰かの力が伸びたから」と思える思考力が身に付きます。今になって思うことですが、そういった考え方の基礎を学ぶ場にはなるし、これは学業の場ではなかなか身に付きづらいことだと思います。

 山之内 今でも「こんなに誰かのために全力を注いで取り組んだことはなかった」という話をよくします。今の自分がいるのは、周りの仲間やOGのみなさん、下級生のみんなだったりと、自分ひとりではここまでできないというのを毎日みんなが実感しています。

 小西 学生の皆も新型コロナで大変な思いをしていると思う。大変なことを何とかしのいだという経験が後々必ず輝きを持つ時が来ます。今そんなこと言われてもつらいと思われるかもしれませんが、一生続くわけではないし、自分たちをどう成長させるか工夫してほしい。自分で考えて自分で行動できる、別の視点から捉えられる良い機会と思って頑張ってほしいです。

 ――山之内さんは部活と学業を両立できていますか。

 山之内 学生として、学業に真剣に取り組むことはラクロスに生かされると思っています。今年教員採用試験を受けますが、教員になるために得た知識が、ラクロス部主将として生かされていると感じます。

 小西 素晴らしすぎて涙が出そう。社会人として、学びを得て大学スポーツをやっている人と一緒に働きたいと思います。

体育会ラクロス部女子の初代主将を務めた小西美穂さん=本人提供
体育会ラクロス部女子主将の山之内風香さん

◆この記事は『クラブ・サークル新入生歓迎冊子 2021』(関西学院大学学生連盟発行)に掲載したものです。

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