(障害者と防災) 誰が支援し、どう避難するか 今すべきことは 舩後靖彦さん、横澤高徳さん

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 参議院議員で自らも障害を持つ舩後(ふなご)靖彦さんと横澤高徳さんに、災害時に障害者を守るために、政府の施策への評価や自身の政策を聞いた。

 ■インクルーシブ防災で バリア取り除く 舩後靖彦さん(参議院議員)

 要支援者の災害対策について、政府の努力は理解しています。しかし、その多くが障害者の現状に合っているとはいえません。

 例えば、自然災害で停電が起きたとき、私のような人工呼吸器利用者にとって、電源確保が最重要課題となります。政府は「非常時でも電源が確保できる環境の整備を進めている」としていますが、2018年の西日本豪雨の際、病院で電源を貸してもらえなかったという事態が報告されています。また、内閣府からの避難所での電源の利用について要請が出されていますが、実際に電源が必要な障害者が一般の避難所に避難することはありません。アクセスや医療ケアの問題があるからです。

 個別計画の作成とその実行はもちろん重要ですが、実際に災害が起きたとき、計画が生かされるかどうかは平時における地域とのつながりが大きいです。地域の防災・減災力を培うためには、生まれたときから障害などを理由に分け隔たれることなく、共に生きていけるインクルーシブな社会づくりが重要です。

 熊本大地震の際、熊本学園大学がキャンパスを避難所として開放し、要支援者や近隣住民が避難したことで注目されました。同大には障害を持つ職員や学生が多く在籍しており、日常的に対応してきたことが生きたのです。

 障害というバリアが取り除かれ、共に学ぶインクルーシブ教育が一般的になれば、建物も人の意識においてもバリアが解消されるはずです。このようなインクルーシブ防災の考え方を広めていきたいと考えています。

(聞き手・松岡樹)

    *

 ふなご・やすひこ 1957年生まれ。れいわ新選組所属の参議院議員。2000年、筋萎縮性側索硬化症(ALS)と告知され、現在は人工呼吸器を利用するなどして生活している。

 ■人の命を守るために 今できることは 横澤高徳さん(参議院議員)

 改正された災害対策基本法により義務化された「避難行動要支援者名簿」は数値的にはほとんどの自治体で作成が完了しています。しかし、名簿の情報が更新されているのか、本当に支援が必要な要支援者全員を網羅しているかなど、その質に関しては課題が残っている状態です。

 さらに、名簿情報に基づいた「個別計画」の作成が急務の課題だと考えます。名簿を作成しただけでは十分とは言えません。名簿を活用し、誰がどのように要支援者を支援するのかを決める個別計画が全部作成済みの自治体は、全国でわずか12・1%しかありません。

 原因には、自治体の人員不足や財政面の負担、法律で作成が義務付けられていないこと、福祉に携わる人との連携不足などが挙げられます。私は、個別計画の作成を国がリーダーシップを執って積極的に推し進めていく必要があると考えます。もちろん、現場の負担を考慮して国が予算を割り当てるなど、支援の体制を整えた上で義務化による縛りを設け、作成を進めるべきです。人の命を守る上で、いつかはやらなければならない課題だと考えています。

 東日本大震災以降、政府も要支援者の防災対策の重要性を理解していますが、現状の取り組みに関しては到底十分とは言えません。弱者という言葉をあえて使うとすれば「弱者に優しい社会はみんなに優しい社会」だと私は考えています。要支援者の被害が減るということは、それ以外の人の被害はもっと減るということです。政府が本気で対策に取り組むまで何度も粘り強く、国会で働きかけていきます。

(聞き手・難波千聖、松岡樹)

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 よこさわ・たかのり 1972生まれ。国民民主党所属の参議院議員。モトクロスの選手だったが、97年、練習中の事故で脊髄を損傷。チェアスキーに出会い、2010年のパラリンピックアルペンスキーに出場した。

 ■障害者を守るため 制度見直すとき 関西学院大学新聞編集長 松岡樹

 東日本大震災の教訓を生かして国は2013年、災害対策基本法を改正。全市区町村に障害者などの要支援者の氏名や住所、電話番号を載せる「避難行動要支援者名簿」の作成を義務づけた。名簿を活用して、誰が支援し、どこへ避難するかを決めておく個別計画の作成も求めている。ただ、いずれの制度も課題が多い。

 総務省消防庁によると名簿は19年6月時点で全国98%の1720市区町村で作成済み。だが、15年の陸川貴之(関西大)らの調査では自主的な申し込みにより同意を得た人の名簿で網羅性がないと回答した市町村が28%あり、本当に支援が必要な人が把握できていないとの意見もある。東日本大震災では、福島県南相馬市で同意による名簿作成をしていたものの未搭載の障害者が多く使えなかった事実もあり、教訓を受け止め、制度を見直す必要がある。

 個別計画については約4割の自治体が未作成。作成が進まない理由として、▽障害者の避難を手助けする支援者が見つからない▽作成の人員不足▽法律上の義務ではないこと——が挙げられている。また、平時の福祉環境作りと災害時の緊急対策が、保健福祉や防災・危機管理部局という異なった組織に分断され、連携が取れていないことも指摘されている。内閣府の青柳一郎・政策統括官は関西学院大学新聞の取材に「防災部局と福祉部局の連携が最重要課題。厚労省と連携し個別計画の作成に生かすことを検討している」と話している。自治体は個別計画策定を地域まかせにせず、関連部局を巻き込んだ体制を作る必要がある。

 災害は必ず来る。災害で障害者を守るために個別計画策定は欠かせない。土台となる避難行動要支援者名簿の網羅性を高めるとともに、個別計画作成の義務化を検討する必要がある。

舩後靖彦さん=本人提供
横澤高徳さん=3月4日、東京都千代田区の参議院議員会館

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