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(マスターピース)くどうれいん×戸塚純貴「登場人物未満」 同郷の二人が紡ぐ「いるかもしれない男」の物語

 「登場人物未満」は岩手県盛岡市出身の俳優・戸塚純貴と作家・くどうれいんがタッグを組んだ掌編集だ。雑誌「ダ・ヴィンチ」で連載された企画を2025年に書籍化した。

 東京都内や岩手県で撮影された戸塚さんの写真を元に、くどうさんが15の「いるかもしれない男」のストーリーを書き下ろした。各話の最後に収録されている、戸塚さんが本編から連想して創作した物語「登場人物超過」も見どころだ。

 本書は各話の最初に戸塚さんの写真が見開きで掲載されている。読む前に「どんな男の話だろうか」と想像することが、この本の楽しみ方の一つだ。読んだ後にページを戻して写真の戸塚さんを見返すと、不思議とその物語の登場人物に見えてくる。

 読者に好評なのは、くどうさんが戸塚さんとカフェで話した様子を著したエッセイ「戸塚さんを捕まえる あとがきにかえて」だ。母親にまでも「どういう人かわからない」と言われるという戸塚さん。不思議な色気をまとう戸塚さんに翻弄され、動揺するくどうさんの様子が、読者にまっすぐに伝わってくる。 

 中でも、「だってさあ、みんな自分で自分のこと、そんなわかんなくない?」という戸塚さんの言葉が印象的だ。「自分のことはわからない」と認め、周囲からの評価はすべて「全部違うけど全部そうかも」と受け入れる。そんな戸塚さんが被写体だからこそ、読者は「いるかもしれない男」に魅了されるのかもしれない。

 現代社会では様々な場面で、多様性を認め合うことが求められている。一方で、自分や他者を何かに分類し評価してしまっている人は多いのではないだろうか。一人ひとりが個性や想定外を受け入れ、なによりも自分自身に寛容でいることが、包括的な社会の実現への一歩になるはずだ。

(八島みのり)

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