森隆史さん=本人提供
「こんにちは、KGキャリア入門担当講師、森隆史です」。
関学生のほとんどが一度はこのセリフを耳にしたことがあるだろう。対談映像授業「KGキャリア入門」冒頭の森さんの挨拶だ。毎回の関西学院大学卒業生のゲストとそのゲストのキャリアをテーマに、森さんが対談した映像を毎回配信する人気授業、KGキャリア入門。2025年度ではその受講者数は春学期と秋学期を合わせて延べ6000人を超えた。
その担当講師を務め、自身も関学大卒業生の森隆史さんに、ご自身のキャリアについてお話を伺った。(森さんのご略歴は記事最下部)
KGキャリア入門
2022年より開始されたキャリアセンター開講のオンデマンド型キャリア授業科目。各方面で活躍する14人の卒業生と森さんによる対談映像を配信。卒業生の生き方から、現役生が関学生として生きていく上での価値観を学ぶ。
―直感に従って決めた関学
当時、国立大理系志望でした。ところが高校3年生の時の1981年11月1日の新月祭の日に、僕が好きな浜田省吾さんが関西学院大学の中央芝生というところにやってくるということで初めて関西学院大学に伺いました。真っ暗な夜のステージに浜田さんが出てきて、真っ白なバックの時計台がスポットライトを浴びてぼわっと浮かび上がって、「ああ、もうここや」と直感で決めました。
―社会学部を選んだ理由
関学大の4学部を受けて、ありがたいことに4つとも通ったんです。けれど、じゃあ関学大の中で何を勉強しようかと思って大学案内を読んで、「このゼミ面白そう」と思った広告論の先生のゼミが社会学部だったんです。
―ゼミ選択で起きた予想外の出来事
2年生の秋に社会学部の掲示板に張り紙で「来年のゼミ募集」と先生の名前がずらっと出たんです。でも広告論の先生の名前がなかったんですよ。何かの間違いだと思って事務室に飛び込んだら、「先生は来年から二年間アメリカ留学に行かれます」と。このゼミに入りたいから社会学部を選んで先生の授業も全部取ったのに、入れないとなって愕然としました。ただ「決断したのは僕」なので、誰のせいにもできないのですけどね。
このゼミに入りたいから社会学部を選んで先生の授業も全部取ったのに、入れないとなって愕然としました。ただ「決断したのは僕」なので、誰のせいにもできないのですけどね。
ー大学生活について
家庭が経済的に厳しくて、奨学金と自分のアルバイトで授業料を払っていました。だから毎日授業の後はアルバイトという感じの学生でした。アルバイトは通っていた洋服屋さん、当時時給が380円のケンタッキーフライドチキン、あとは家庭教師や塾講師だとかをやっていました。
―それでも足りないお金を補うためにしていたアルバイト
それでも授業料を払うのに足らないことがあって、日雇い労働あっせん所に行って日雇いアルバイトをしていました。
ただそれでもまだ足りなくて、寝ている時間も何かできないかなと思って探したら、夜の小学校の安全を守る用務員のアルバイトがありました。何かあったら対処しにいかないといけないのですけど、基本ずっと寝ていられるというアルバイトです。その小学校はすごくお世話になりましたし「なんだかんだ考えりゃ生きていけるな」という自分にとっての自信にもなりましたね。
―アパレル企業への就職
4年生になって企業訪問をするのですが、みんなデスクに座って静かに仕事をしている職場が多かったんです。僕自身はそういう所では働けないと思ったのと、アルバイトで洋服の販売をしていて洋服が好きだったこともあり、ブランドというもの自体にすごく興味があったので一社目は洋服の販売をする企業に入りました。
―思い切って決めた二社目のアパレル企業への転職
一社目の紳士服のお店のお客さんで、すごく僕から洋服を買ってくださる男性客の方がいたんです。アパレル企業の当時役員の方だったのですけど、その方から「森君、自分のブランド持たないか」と来ていただく度にお話をいただいて。「そこまで言われるなら移ってみるか」と思って一社目を2年で辞めて二社目の会社(ナルミヤ・インターナショナル)に入ったんです。
ー予想外の担当ブランド
入社した初日にその僕の担当できるブランド名を役員に聞きに行ったら「ブランド名は決まっているんだよ」と言われて、mezzo pianoと書いてあったんです。
メンズを担当できると思っていたのにどう考えても紳士服のブランド名じゃないなと思って、もしかすると女児服かなと思って聞くと「さすが森君は感性がいいね。その通りだよ」と言われて、血の気が引きました。だけどそれで僕も火がついて「日本一の女児服ブランドにしよう」と思いました。
―人生の転機となった大震災
1995年1月17日、阪神・淡路大震災が起こりました。「神戸のために何かできないか」という気持ちがすごくあって、震災のボランティアを始めました。
―神戸を支えるため32歳で無職に
当時32歳ながらもう(ボランティアのために)会社を辞めて、8カ月間無職を体験しました。
―8カ月間ボランティアを続けられた原動力とは
若者がやっぱり僕に頼ってくれるのでそれを糧にしていましたね。それと自分の人生をやり直したいなという気持ちがあったのと、もう一つは、自分を必要としている人たち、被災されている方もそうだし、ボランティアをしている若者もそうだし、「僕のことを必要としている人がいる限りはその人たちのために動こう」、そんな気持ちでした。
―ある新聞広告が再び職に就くきっかけに
パソナグループが神戸のハーバーランドに商業施設を起ち上げるということで、新聞にそのプロジェクトの広告が出たんです。それをたまたま見たんですけど、広告には「神戸のために働きませんか。パソナ」と書いてあるだけで内容は何も書いていませんでした。でも訳が分からなくてもとりあえず出してみようと思って、応募書類を出し面接を経て通してもらいましたね。「神戸のために」という気持ちはすごく強かったので、そこの部分を評価いただけたのかなという気がします。
―直感の行動がきっかけになった、ディズニーへの転職
神戸ハーバーサーカスを起ち上げた後、当時パソナの本部があった東京の広尾にあるビルをどんな企業が入っているのかと一棟一棟回ってみました。
そして何日かしてあるビルの中にウォルト・ディズニーがあったのですよ。自分自身映画が好きだったしライセンスビジネスということにすごく興味があったので、その翌日に日本文と英文で応募書類を持っていきました。当然「今は受け取れません」と言われましたが、ただせっかく来てくださったからということで、「2週間後にウォルト・ディズニーの求人広告が転職雑誌に載ります」ということを教えてくださったのです。
応募書類を持って帰って2週間後にその求人広告を見つけて、それを経由して応募したら面接いただいて採用となりました。自分の足で歩いて見つけなければ求人広告が出るなんて分からないので、やっぱり直感だなと思いました。
―関学大への入職について
KGキャリア入門のベースになっているキャリアゼミの授業は2007年から非常勤講師としてやっていました。それから関学大オリジナルのディズニーのクリアファイルを作ったり、ディズニーやスターウォーズを入れた時計台でのプロジェクションマッピングをしたりしていたので、お声がかかって2017年に関学大に正式に移籍しました。
―映像にこだわって作ったKGキャリア入門
やっぱり映像ってクオリティの高いものを作っておくと時代の壁を越えていくということがあると思うんですよね。実際ディズニー映画っていうのは何十年も前の映画でも見られるじゃないですか。だからそういう本格的な映像授業を作りたいなと思いました。
それと関学大には素晴らしい卒業生の方々がたくさんいるということを僕自身卒業してから知ったので、その事を現役生にも知ってもらいたいという思いで、ただの映像授業じゃなくて、卒業生との対談映像授業にしたのです。
―KGキャリア入門を通して学生に最も学んでほしいこと
関学大という学校に皆さん何かのご縁で入られたわけじゃないですか。その何かのご縁で集まった方々に、大学は4年間で終わってしまうけど関学生は一生続くということを知ってもらいたかったのですよ。関学大の授業料って私学なので安くはないですけど、それが一生分と思えば決して高くはないと思います。
―ご自身の経験から思われること
自分のキャリアってどこかに正解があるわけじゃなくて「自分が選んだ道を正解にしていくのがキャリア」だと思っています。mezzo pianoと聞いて失敗したと思っていたら今はないですね。自分の直感を信じて動いているので誰のせいにもできないんですよ。すべて自分のせい。だからそれを形にするしかないんです。
―ご自身の経験から伝えたいこと
思った瞬間が一番若い時ということです。今が一番若い時なんですよ。だから何かやりたいことがあったらやった方がいいんじゃないかなと思います。
―仕事をしている中で大切にしていること、やりがいを感じる瞬間
若い人のために何かできればいいなっていうことはいつも考えていましたね。卒業生が数年後また僕に会いに来てくれて話をしてくれたりすると喜びを感じますし、毎年キャリアゼミの現役生と卒業生でクリスマスパーティをやっているんですけど、そうやって集まってくれると「ああ、今までやっていてよかったな」という気がしますね。
だからこそ今の学生の前でしっかり時間を使わないといけないなと思います。学生は卒業してからの方がキャリアは長いので、学生の何十年後かのためになっていてほしいなと思います。
―森さんにとってのマスタリーフォアサービスとは
卒業してきちんと仕事をしているとそれなりのポジションを得たり、富を得たりすると思うんですけど、その時に富とか名誉を自分のためだけに使う人もいると思うんです。でもそうではなくて「自分のためだけではなく、誰かのために自分の存在を使っていく」ということを教えてくれるのがマスタリーフォアサービスの意味合いだと僕は思っています。
そしてずっと自分の人生を歩いていくのだけどもいつまでもたどり着けないものですね。自分の人生が歩むごとにマスタリーフォアサービスも進んでいきます。だからいつまで経ってもたどり着けない人生の指針のようなものです。
年代なりに理解はしようとするんですけど、答えが落ちてこないんです。なので今僕の大切にしていることが、今の僕の年代にとってのマスタリーフォアサービスなのかなと思います。
―キャリアに関して、新入生に心掛けてほしいこと
やっぱりキャリアというのは自分の歩いていく道を正解にしていくものなんですよ。ぜひ色々な人のアドバイスや話を聞いてほしいんだけれど、人の話を鵜呑みにしたままその道に進むと、進んで後悔した時に人のせいにすると思うんです。だから人のせいにできないようなキャリアの選び方というのをされた方がいいんじゃないかなと思います。
―新入生へのメッセージ
関学生活を謳歌してください。関学大には謳歌できるような仕組みがしっかりありますし、卒業生のつながりもとても強いです。関学大に入ってよかった、卒業してよかったと思えるような学生生活には「必ずなる」ので、関学生活を謳歌して、関学大で過ごしてよかったと思えるような学生生活を送ってほしいです。
(高尾亮央)
森 隆史(もり たかし)
1963年4月4日大阪府大阪市生まれ池田市育ち。1986年関西学院大学社会学部卒業後、大同毛織入社。1988年ナルミヤ・インターナショナルに入社し、mezzo piano起ち上げに参加。1995年震災後の神戸復興、雇用創出を目的とした、パソナ「神戸ハーバーサーカス」プロジェクトに参加。1996年ウォルト・ディズニー・エンタプライズに入社後、1997年ブランディング戦略会社ディーアイエスを設立し、代表取締役に就任。20年間の会社経営を経て、2017年4月学校法人関西学院に入職。ブランディング戦略に関する業務を担当し、2022年4月より「KGキャリア入門」を担当。

